滴シリーズ — 連続短編詩_ぎた
叢雲が晴れ、三五の月影は、
もとより空に在りしとぞ知る。
萌えいづるいのち、きらめく虹の端は、
嵐の後の曼荼羅世界。
探しても見つからないのか、探すから、
見つからないのか私の居場所。
ひび割れた心に撒いた一掬い、
やがて咲かせん、匂い立つ夢。
昨日は去り、明日は来ませぬ今日この日、
憂しと嬉しと四六時なりけり。
手を結び、口に真言を唱える。
心に阿字を置けば、我れはみほとけ。
目を凝らし耳を澄ませば、
宇宙の響き、みほとけの声。
与えては守り忍びて精進し、
静かに禅定、智慧ぞ開かん。
雨しとど、乾ぶる心、うるおせば、
知らず芽吹ける、慈悲の種かな。
み胸から、巣立ちゆく我れ、
旅路経て、ようよう着いたは如来のみ胸。
暗闇を金に切り裂く稲妻の、
刹那の後に響く法声。
千万の声が重なる秋の野は、
法界宮殿菩薩の楽団。
明鏡の月のごとなる我が心に、
金色の阿字、耀きて立つ。
唱うれば、我れなく彼なく、仏なく、
衆生もなければ、法界もなし。
一音に、万響含む、雫かな、
音なく滴る、その音を観よ。
生き死にを超えて進まん悟りへの、
道ぞ険しき優曇華の花。
わだつみに、沈みし経の文字文字が、
ほとけとなりて、光泡立つ。
形無く、色無く、音無く、光無く、香りも無けれど、
満ちる法音。
西の方十万億土は果てもなき、
遠きにありかまつ毛にありか。
蚊のまつ毛の先に止まれる焦螟の、
その毛の先に浄土ありけり。
微笑み合えば、一時の仏ぞ、
君と我れ、仏と仏が見つめ合うなり。
君ゆえに惜しからざりし命かな、
八峯の椿咲かで落つとも。
生まれきて死にゆく命のためならば、
明日と言わず今手を伸ばさん。
今ここに尽きなんとする炎かな、
最後の一耀ほとけの計らい。
つきかげは、いとさやかなり、
まちかけて、こいしとおもう、こころのわざかな。
満つるとも欠けゆくすがたも陰なりとも、
月ぞ恋しき、わがこころかな。
咲き匂う花こそ愛でよ明日ありと、
朧気にして今を過ぐすな。
雨上がり雲の端より日の射して、
み光嬉しや如来の微笑み。
花しぼみ草はしおれて枯れぬれど、
法の花こそ永遠に散らざれ。
有難き命なりけり、この心の鼓ぞ響く、
宇宙の果てまで。